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バーマーグの夜 西海岸編 2 [海外]

「マスターは、以前どこに住んでいたんだっけ?」
トリマーの勉強をしているますみさんが、大好きな白のスパークリングワインを飲みながら質問している。
西海岸でも他の地域に漏れず、犬を飼っている人も多い。
そして、犬のトリミングを日本の数分の1の値段で専門に教えてくれるスクールがいくつかあるらしい。
TORRANCEにあるスクールが早く終わったので、友人と来ていたのである。

「東南アジアのちょっとした大きな街にね。10年近くいたかな・・・」
彼がそう話した瞬間、ちょっと遠いところを仰いだようにみえた。
「やっぱり、バーテンダーをしていたんだよね?」
彼女は少し憂いな表情をみせたマスターに興味を持ったようで、話をふってくる。
「アア、まあ、そんなところですよ・・・」

以前はもっとおしゃべりだったマスターが、最近はすっかりと言葉が少なくなってきてしまったようだった。

以前の店では、彼の相棒とでも言うべきアシスタントの美人ウエイトレスや、昔なじみの常連客に少しいじられながら、しかし、楽しげに会話に加わっていたマスターだったが、ここではなかなかそういう機会に恵まれないらしい。

オーギマスターが以前からアシスタントを探している、という話を聞いていて、トリマー勉強生のますみさんが、友人を紹介したいと言って来たのだ。
「マスター、彼女はしのさん。去年だんなと別れて、それで仕事を探しているんだって」
「はじめまして、しのと言います」
マスターに驚きの表情が一瞬浮かんだように見えた。
あのドバァイに旅立った彼女に、あまりにも声が似ていたからだ。
そういえば雰囲気も似ている。
「もしよかったら、ここで働けたらと思って、ますみさんに連れてきてもらったんです。」
「ここの仕事は、お客さんといろいろとおしゃべりをしてもらうわけだけど、そのあたりは大丈夫ですか?」
「私、人と話すの大好きなんです! 好奇心旺盛で!!」

アメリカに住んで7年目、沖縄で米国人のだんなに見初められて結婚。ところが、だんなの勤務先がウィスコンシン州で英語があまり得意ではない彼女は家に引きこもりとなってしまったのだそうだ。
なんとかだんなと楽しくしようと頑張ったものの、だんなは仕事が忙しく、やっぱりつらくてつらくて毎日泣いて過ごしていたのだという。
国際結婚の現実がこれほどのものだったとは、でもうちが特別なのかもしれない、と散々悩んだものの、相談する友人も近くにはいないし、ついに離婚することになってしまったということだった。

もともと誰かと話していないと寂しくて仕方が無い彼女にとって、ゆっくりとお客さんと話ができるというのは願っても無い職場なのだ。
しかし、そんな事情があるにしても、まだ日本に帰らないのは何故なのだろう?
しのさんはこの質問には、ちょっと、いたずらっぽい顔をして答えてはくれなかった。
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バーマーグの夜 西海岸編 [海外]

BAR MAAG in ORANGE村

アメリカ西海岸、ロサンゼルスより南東に移動すること小一時間のところに位置する、オレンジカウンティー。
ディズニーランドはもちろんのこと、全米屈指のマリーンリゾートニューポートビーチや、西海岸最大のブランドショッピングモールであるサウスコーストプラザをも擁する一大アミューズメントエリアである。
ただ、そのイメージとは裏腹に、大都会という雰囲気はまったくなく、多くは平屋、又は2階建ての家が立ち並ぶ、のどかな住宅街でもある。

さらにオレンジカウンティーは、モザイク都市ロサンゼルスに隣接する、全米屈指のモザイク都市でもある。
全米最大のベトナム人町「リトル・サイゴン」。その北隣にはこのエリアで2番目の広さを誇る「コリア・タウン」が存在し、これらの町の東側にはサンタ・アナの広大な「ラティーノ人街」が展開されている。
これら、リトル・サイゴンやサンタ・アナのエリアはまさに「村」と呼ぶにふさわしいような独特のコミュニティーを形作っており、オレンジカウンティーの大きな特徴となっている。


ここに、一人の一見「いけ面」だが風采があがらない感じの日本人男性が住んでいる。
まだ、ここに住み始めて数年しかたっていないようだ。
その孤高とでも言うような、そう「次元大輔」を思わせるような、ルパンでもいたら「お前ったら、実際クラッシックだよ!」と言う有名なセリフを言われそうな雰囲気に、ここに住み始めてから拍車がかかっているかのようだ。

今日も、彼の愛用の仕事道具であり、数々のドラマの立会人でもあったそのよく使い込まれた「シェーカー」を振りながら、オレンジ村の彼の切り盛りしている店に馴染みの客が顔を出している。

「オーギ マスター」
本名は定かではないが、彼自身も多くの出会いや別れを経験してきたようで、不思議なことにこの地でもお客さんから同じように呼ばれている。

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